名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)2381号 判決 1989年10月25日
反訴原告
西脇昭吉
反訴被告
恵那ダンボール株式会社
ほか一名
主文
一 反訴被告らは、反訴原告に対し、各自金一一八八万六六四八円及びこれに対する昭和五九年九月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを四分し、その三を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 反訴被告らは、反訴原告に対し、各自五〇〇〇万円及びこれに対する昭和五九年九月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は反訴被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 反訴原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和五九年九月二一日午前四時五分ころ
(二) 場所 愛知県西加茂郡三好町大字三好字沖田三の二県道豊田・知立線上
(三) 加害車両 反訴被告稲垣芳夫(以下「反訴被告稲垣」という。)運転、反訴被告恵那ダンボール株式会社(以下「反訴被告会社」という。)所有の普通貨物自動車
(四) 被害車両 反訴原告運転の軽貨物自動車
(五) 態様 駐車中の被害車両に加害車両が追突したもの(以下「本件事故」という。)
2 責任原因
(一) 反訴被告会社
反訴被告会社は、加害車両を自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により損害賠償責任を負う。
(二) 反訴被告稲垣
反訴被告稲垣は、前方不注視の過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により損害賠償責任を負う。
3 傷害及び治療経過
(一) 反訴原告は、本件事故により頸部捻挫、腰部打撲、頭部打撲等の傷害を受け、昭和五九年九月二一日から同六〇年二月二八日までの間、下窪整形外科、柴田整形外科、坪井整形外科、大同病院、南生協病院に各入院し(合計一六一日)、その後南生協病院、名大医学部附属病院に各通院し(合計三三七日)、同六二年六月二四日症状が固定した。
(二) 反訴原告は、右症状固定時において、両上肢知覚障害、頸椎及び左肩関節の運動障害、握力の大幅低下など神経系統の機能に著しい障害が発生し、さらに右眼の眼球運動の障害、視野狭窄、両眼の大幅な視力低下の後遺障害が残つた(自賠法施行令二条別表の後遺障害等級五級に相当する。)。
4 損害
(一) 治療費 一一九万一四五〇円
南生協病院分四一万六二八〇円、名大医学部附属病院分七七万五一七〇円
(二) 付添看護婦代 五万四五〇〇円
反訴原告は、名大医学部附属病院での脳外科手術中、付添看護婦を依頼し、その賃金、手数料として右金額を支払つた。
(三) 入院雑費 一六万一〇〇〇円
一日あたり一〇〇〇円、一六一日分
(四) 休業損害 二六三九万九二七七円
反訴原告は、露店商(ラーメン屋)を営むものであり、本件事故前三か月の収益は、月平均七八万六四七三円であつたから、症状固定日までの一〇〇七日間の休業損害は、次のとおり二六三九万九二七七円となる。
786,473÷30×1007=26,399,277
(五) 逸失利益 六四〇四万五〇一二円
反訴原告は、症状固定時五六歳であり、本件事故により一一年間にわたり七九パーセントの得べかりし収益を喪失したので、逸失利益は、次のとおり六四〇四万五〇一二円となる。
786,473×12×0.79×8.59=64,045,012
(六) 慰謝料 一二〇〇万円
入通院分二〇〇万円、後遺障害分一〇〇〇万円
(七) 弁護士費用 八〇〇万円
(八) 損害のてん補 四九五万円
(九) 合計
(一)ないし(七)の合計額から(八)の金額を控除すると、残額は一億〇六九〇万一二三九円となる。
5 よつて、反訴原告は、反訴被告らに対し、各自右の内金五〇〇〇万円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五九年九月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は明らかに争わない。
3(一) 同3(一)の事実のうち、受傷の事実及び入院の始期は認めるが、その余は不知。なお、症状固定時期は昭和六〇年七月七日ころである。
(二) 同3(二)のうち、反訴原告の後遺障害が自賠法施行令二条別表の後遺障害等級五級に相当するとの点は争い、その余の事実は不知。
4 同4の事実のうち、損害のてん補四九五万円についてのみ認め、その余は争う。
反訴原告は、本件事故前に同一部位について自賠法施行令二条別表の後遺障害等級一〇級の後遺障害を認定されたことがあるから、本件事故による損害から既往の後遺障害による損害を控除すべきである。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1(事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。同2(責任原因)の事実は反訴被告らにおいて明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
二 同3(傷害及び治療経過)について
1 反訴原告が本件事故により頸椎捻挫、腰部打撲、頭部打撲等の傷害を受け、昭和五九年九月二一日から入院治療を開始したことは、当事者間に争いがない。
2 いずれも成立に争いのない甲第九号証の四、五、乙第三号証、第一〇号証、第二二号証の一ないし四、第二三号証、第二五号証、反訴原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、反訴原告は、本件事故による右傷害の治療のため、昭和五九年九月二一日から同六〇年一月一七日までの間、下窪整形外科、大同病院等に入院し(合計一一九日)、同月一八日から南生協病院に通院を開始し、同年二月一二日から同月二八日まで同病院に入院し(一七日)、その後同病院に通院するかたわら、同年五月二九日から名大医学部附属病院に通院を開始し、同六一年九月九日、一〇日及び同六二年二月一七日から三月三日の間(合計一七日)入院したことが認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。
3 いずれも成立に争いのない乙第二号証、第三号証、原本の存在並びに成立に争いのない乙第一九号証及び証人上野芳郎の証言によれば、反訴原告の症状は昭和六一年六月二四日に固定し、後遺障害として、両上肢知覚障害(右尺側、左上腕以下の触・痛覚の低下)、両上肢から手の安静時及び運動時の振戦(特に右手のふるえ、しびれが強い。)、両手の握力の大幅低下等神経系統の機能に障害が残つたことが認められる。
なお、反訴原告は、本件事故により、右眼の眼球運動の障害、視野狭窄、両眼の大幅な視力低下の後遺障害が残つた旨主張するが、いずれも成立に争いのない甲第一号証の四、乙第一号証によれば、昭和五七年六月二九日の時点で、反訴原告の視力は右が〇・三(〇・八)、左が〇・二(〇・七)で、右上斜筋麻痺が認められたうえ、本件事故後の名大医学部附属病院眼科の検査によつても、眼球運動障害の原因は不明で、視力低下についても異常は認められず原因不明であるというのであるから、反訴原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はないといわざるをえない。
また、症状固定時期に関して、甲第一号証の三には昭和六〇年七月六日、乙第二〇号証及び第二一号証には同六二年六月二日の各記載があるが、前掲乙第二号証、第三号証、第一九号証及び証人上野芳郎の証言に照らして、いずれも採用することはできない。
三 請求原因4(損害)について
1 治療費
反訴原告は、南生協病院及び名大医学部附属病院の治療費に関する証拠として乙第二二号証の一ないし四及び第二三号証を提出し、反訴原告は、本人尋問において、一点単価一〇円で算定した金額を支払つた旨供述している。
しかしながら、右各書証及び成立に争いのない乙第六号証の一ないし四〇によれば、反訴原告は、国民健康保険を使用して治療を受けていること、その場合の本人負担分は二割であることが認められるので、反訴原告が一点単価一〇円で算定した金額をすべて支払つたものとは認め難い。
そこで、反訴原告が支払つたと認めうる症状固定時までの治療費は、反訴原告本人尋問の結果により真正な成立を認める乙第四号証による四六一〇円、前掲乙第二二号証の一、二による一七万六一八〇円(二割負担とする。)、前掲乙第六号証の一ないし二九による三万〇三七八円、以上合計二一万一一六八円となる。
なお、症状固定後の治療費については、原則として本件事故と相当因果関係ある損害とは認められないが、昭和六二年二月に名大医学部附属病院脳外科において実施された手術(乙第一九号証、二五号証)に関する費用については、その性質上必要・相当なものと認められる。もつとも、反訴原告本人尋問の結果によれば、反訴原告は、右手術に関する費用を含めて三〇万円の支払を受けていることが認められるから、右費用は既にてん補済みということができる。
2 付添看護婦代
反訴原告本人尋問の結果により真正な成立を認める乙第二四号証の一、二及び同尋問の結果によれば、反訴原告主張の五万四五〇〇円を右手術に関する損害と認めうるが、同尋問の結果によれば、右付添看護費も前記支払を受けた三〇万円に含まれることが認められるから、右費用は既にてん補済みということができる。
3 入院雑費
弁論の全趣によれば、反訴原告は、前記二2の入院期間である合計一五三日間、一日あたり一〇〇〇円、合計一五万三〇〇〇円の雑費を要したことが認められる。
4 休業損害
(一) 反訴原告本人尋問の結果により真正な成立を認める乙第七号証の一ないし三、第八号証の一ないし三、第九号証の一ないし三、前掲乙第二五号証及び同尋問の結果によれば、反訴原告は、本件事故当時五四歳で、露店商(ラーメン屋)を営んでいたこと、合資会社林製麺所からラーメンの玉を仕入れており、本件事故前の昭和五九年六月から八月までの三か月間に、一か月平均八八六七玉を仕入れ、その代金として一か月平均三一万〇三三三円を同会社に対し支払つていることが認められる。
ところで、反訴原告は、本人尋問において、ラーメン一杯につき八〇ないし九〇円の利益が出るから、仕入れの玉数からみて一か月平均七〇ないし八〇万円の利益がある旨供述する。
しかしながら、反訴原告本人尋問の結果によれば、反訴原告は、営業収入について確定申告をしていないことが認められるうえ、ラーメン一杯あたりの利益率及び現実に売れた玉の個数について的確な証拠がない。そこで、以上の事実に当時の男子当該年齢の平均賃金である五〇〇万九八〇〇円をも斟酌すると、反訴原告の収益は、少なくとも一か月四〇万円程度はあつたものと認めることができる。
(二) 前掲乙第二五号証及び反訴原告本人尋問の結果によれば、反訴原告は、本件事故時から前記症状固定日までの約二一か月間就労することができなかつたことが認められる。
(三) もつとも、成立に争いのない甲第一号証の一ないし四、前掲乙第二号証及び弁論の全趣旨によれば、反訴原告は、昭和五五年八月一八日に交通事故に遭い、外傷性頸椎症性神経根症で、頸椎前方固定術を受けたことがあり、左肩鎖関節固定術も受けていること、右交通事故の後遺障害については自賠責保険において併合一〇級の認定を受け、それに見合う補償を得ていることが認められ、右事故による頸椎の変性が本件事故による神経系統の障害にも寄与し、治療の長期化に影響を与えているものと推認できるので、反訴被告主張のように、この点は損害の算定にあたつて考慮することとする。
(四) 前記一か月四〇万円の収益を基礎とし、前記二一か月分の休業損害について、(三)の点を考慮して二五パーセントの減額をすると、休業損害は次のとおり六三〇万円となる。
400,000×21×0.75=6,300,000
5 逸失利益
(一) 前掲甲第一号証の一によれば、本件事故による反訴原告の後遺障害について、調査事務所に対し等級の事前認定を求めたところ、前回の交通事故の後遺障害等級一〇級を超えるものではないとして、今回の分については非該当との判断がなされたことが認められる。
しかしながら、自賠責保険の取扱い上非該当になるからといつて後遺障害による損害がないとはいえないのであつて、前認定の反訴原告の神経系統の障害の内容・程度に照らして、右手の機能障害は就労に影響を及ぼすことは明らかであり、かつ、長期間継続するものと認められる。そして、右事実に前回の交通事故の後遺障害の存在を斟酌して算定すると、反訴原告は、本件事故により、少なくとも症状固定後一一年間にわたり一四パーセントの得べかりし収益を喪失したものと認められるから、逸失利益は次のとおり五七七万二四〇〇円となる。
400,000×12×0.14×8.59=5,772,480
6 慰謝料
本件事故の態様、反訴原告の傷害及び治療経過、後遺障害の内容・程度等諸般の事情を考慮すると、反訴原告が本件事故により被つた精神的苦痛に対する慰謝料は、入通院分二〇〇万円、後遺障害分一六〇万円が相当と認める。
7 弁護士費用
本件事案の性質、審理の経過、認容額等諸般の事情を総合すると、反訴原告が本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用は、八〇万円が相当と認める。
8 合計
以上を合計すると、一六八三万六六四八円となる。
9 損害のてん補
損害のてん補四九五万円については当事者間に争いがないので、これを前項の金額から控除すると、残額は一一八八万六六四八円となる。
四 結論
以上の次第で、反訴原告の請求は、反訴被告らに対し、各自右一一八八万六六四八円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五九年九月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 芝田俊文)